付録 マメ知識 コオロギの生態

コオロギってどんな昆虫?

ヨーロッパイエコオロギ

コオロギライブラリーを読んでみて、なぜコオロギが最近話題になっているのか、よくわかったわ!

うんうん!未来の食料として大きな可能性があるんだね!でもさ、そもそもコオロギってどんな昆虫なんだろ?バッタとどこが違うのかな?

笑!それじゃ、改めて自己紹介するね!!

生物学的な分類

昆虫類は、大きなまとまりでは外骨格と関節を持つ節足動物のなかまに分類されます。クモやサソリなどの夾角類(きょうかくるい)、カニやエビなどの甲殻類(こうかくるい)、ムカデなどの多足類(たそくるい)も節足動物のなかまです。昆虫類(成虫)は、体が「頭部」、「胸部」、「腹部」の3つの部位で構成され、胸部に6本の脚(あし)と一般に4枚*の翅(はね)をもつことが特徴です(*ハエのなかまなど、2枚の翅をもつ昆虫もいます)。

節足動物のなかま

少し古いデータですが、環境省が発行した平成20年版・環境/循環型社会白書[1]によれば、地球には知られているだけで175万種類の生物(動物、植物、菌類などを含めて)が共生しています。その中で、もっとも種類数が多いのが昆虫類で、なんと約95万種(全体の54%)にも及びます。では、昆虫の種類を整理しながら、コオロギがどのグループに所属しているのか見てみましょう。

昆虫類は、もっとも大きな分類として「目(もく)」という階層で整理されています。例えば、ハチ目、チョウ目、コウチュウ目、バッタ目、トンボ目、カマキリ目、ハエ目というように、大まかなグループにまとめられます。コオロギは、バッタ目(直翅目ともいいます)に分類されます。ですので、コオロギのことをバッタといっても間違いではないのです。世界で発見されているバッタ目の昆虫は、なんと13000種類[2]!ひとくくりに「バッタ」といっても、たくさんの種類がいるんですね。

生物の分類

では、バッタ目の詳しい分類を見ていきましょう。バッタ目はさらにキリギリス亜目(あもく)とバッタ亜目に分かれます。キリギリス亜目はさらにコオロギ上科(じょうか)、カマドウマ上科、キリギリス上科に、コオロギ上科はさらにコオロギ科、ケラ科などに、コオロギ科はさらにコオロギ亜科、スズムシ亜科、マツムシ亜科などに細かく整理されています。一般に「コオロギのなかま」といった場合は、コオロギ亜科に分類される昆虫を指していることが多いようです。さて、コオロギの種類ですが、日本にはエンマコオロギやミツカドコオロギなどが広く分布していて、沖縄や奄美大島など暖かい地域では、東南アジアなどに分布しているタイワンエンマコオロギやフタホシコオロギも確認されています。ちなみに、FUTURENAUTが扱っているコオロギはヨーロッパイエコオロギ(学名:Acheta domesticusという種です。比較的乾燥に強く飼育しやすいことから商業的な養殖品種として人気があり、現在は世界の広い地域に分布しています[3]

コオロギくんはヨーロッパから来たの?

和名ではヨーロッパイエコオロギって呼ばれるけど、原産は南西アジアだと考えられているよ。

だから乾燥に強いんだね!

コオロギの生態

● 脱皮を繰り返して成虫に
昆虫類を含む節足動物のなかまは、脱皮を繰り返して成長していきます。脱皮とは、文字どおり皮を脱ぐこと。体の一番外側にある硬い殻(外骨格)を脱ぎ捨て、一回り大きく成長します。

エビやカニと同じなんだね!

あれ?脱皮したら反対に小さくなってしまいそうだけど・・・。どうなってるの?

脱皮直後、新しい殻がまだ柔らかいときに、一気に大きくなるんだよ!!

脱皮する直前、殻の内側にある細胞が分裂を始めます。しかし、古い殻は硬いので、細胞が増えても体の大きさは変わりません。脱皮する直前は、細胞がとてもきゅうくつな状態になっています。脱皮した直後の新しい殻はとても柔らかく、この状態のときに増えた細胞の分だけ体を大きくすることができるのです。

脱皮直後のコオロギは白く、やわらかい殻に覆われています。時間とともに徐々に殻は硬くなり、コオロギ本来の色に変わっていきます。

● 変態
昆虫類は、幼虫期は栄養を蓄えることに、成虫期は繁殖することに特化した体のつくりをしています。幼虫から成虫になるとき、姿かたちが大きく変化する過程を「変態」といいます。

そういえば、チョウのなかまは幼虫から成虫になるときに蛹(さなぎ)になるけど、コオロギくんも蛹になるの?

僕たちは蛹にならないよ!コオロギは不完全変態(ふかんぜんへんたい)の昆虫で、生まれたときから成虫とほとんど同じ形なんだ。コオロギのなかまは5~8回脱皮を繰り返して、成長するんだよ。最後の脱皮が終わると翅(はね)が生えて、成虫になるんだ!!

へ・ん・た・い!?

幼虫から成虫になるときにいったん「蛹」の状態になり、蛹から脱皮して成虫になる段階を経るものを完全変態といい、ハエ目、ハチ目、チョウ目、コウチュウ目などの昆虫がこれに該当します。幼虫期はイモ虫のような姿をしていて、成虫の姿とはまったく異なることが特徴です。完全変態の昆虫は、蛹の段階を挟んで劇的に姿かたちを変えるのです。

一方、蛹の状態を経ず幼虫から脱皮して成虫に変態するものを不完全変態といい、バッタ目、トンボ目、カマキリ目、カメムシ目などの昆虫が該当します。幼虫(完全変態するものと区別するために若虫ということもあります)の姿かたちは成虫とよく似ています。幼虫(若虫)と成虫の見た目の違いは、翅があるかないかです。コオロギはバッタ目の昆虫ですので、蛹を経ずに成虫になります。

昆虫類の変態

● コオロギはなぜ鳴くの?
コオロギの特徴は、なんといっても発達した後脚。敵が襲ってきたとき、大きくジャンプして逃げたり、蹴ったりして身を守るのです。跳ぶことは得意ですが、飛ぶことは得意ではありません。コオロギの翅は飛ぶことではなく、鳴くことに適した形に進化しています。

コオロギのオスは、前翅を振動させて音を出します。コオロギの前翅は右と左で形が異なり、左の翅に硬い出っ張り、右の翅にヤスリのようなギザギザがあります。これをこすり合わせて音を出しているのです。コオロギが鳴く行為には、メスを呼んだり、縄張りを主張したり、交尾を促したりする役割があります[2]

● コオロギの繁殖と産卵
繁殖期のオスは美しい音色で鳴き続け、メスに懸命にアピールします。研究[4]によれば、遠くのメスを呼び寄せる鳴き方と、近づいてきたメスを交尾に誘う鳴き方の2種類があるそうです。コオロギの繁殖行動は少し特殊です。オスの求愛ソングが気に入ると、メスの方からオスの上に乗っかってきます。メスが上、オスが下になる交尾の体勢は、多くの昆虫類と反対なのです。この体勢で、オスは精子が入った袋(精のう)をメスに渡します。交尾の後、精子がゆっくりとメスの体内に取り込まれて受精します。

交尾から数日すると、メスは産卵を始めます。自然環境では、コオロギは湿った土に産卵管をさし、卵を産みます。1回の産卵で50~100個の卵を産み、その後、交尾と産卵のサイクルを数回繰り返します。

● 新しい命の誕生
日本のように四季がある自然環境では卵の状態で越冬し、春から夏ころに卵が孵化して幼虫が誕生します。東南アジアなどの暖かい地域では、産卵から2週間程度で幼虫が誕生し、一年中コオロギが見られる状態になります。養殖場などの飼育環境では、暖かい環境を保つことによって計画的に繁殖させることができます。

どう?コオロギについて興味を持ってくれた?

うん!知れば知るほど、どんどん興味が出てきたよ!!

今度、観察するためにコオロギを飼ってみようかなぁ。


付録:コオロギの生態の出典

[1] 環境省, 平成20年版・環境/循環型社会白書, 2008.
[2] 日髙敏隆監修, 日本動物大百科<全11巻> 第8版 昆虫Ⅰ, 株式会社平凡社, 1996.
[3] Walker T J (2007), House cricket, Acheta domesticus (Linnaeus). Featured Creatures. University of Florida/IFAS.
[4] Miyashita A et al. (2016), No Effect of Body Size on the Frequency of Calling and Courtship Song in the Two-Spotted Cricket, Gryllus bimaculatus. Plos One, 11, e0146999.


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