第3巻 コオロギ養殖のはなし

ファームで育てる昆虫

「野生のコオロギを捕まえているのですか?」という質問がよくありますが、FUTURENAUTのパウダー原料のコオロギは「ファームで養殖」しています。コオロギ養殖の発祥は、タイの東北部に位置するコンケン。コンケン大学の昆虫学者によって、コオロギの養殖技術が確立されたことをきっかけに、タイでは1998年からコオロギの養殖が始まりました[1]。2011年時点でタイ国内にはコオロギ養殖農家が2万か所あり、1年間に7500トンの食用コオロギが生産されているそうです。第3巻では、タイ発祥のコオロギ養殖産業を中心に、食用コオロギ生産の現場をご紹介します。

 

確かに、野生のコオロギを捕まえるのは大変だよね!

 
 

それに、捕り過ぎちゃったら絶滅しちゃうかもしれないしね!

 
 

養殖には生態系を守る目的もあるけど、一番の理由は「安全でおいしいコオロギ」を「たくさん生産」するためなんだ!

 

安全でおいしいコオロギをたくさん生産するために

食品としての安全性を高めるためには、コオロギに与えるえさの品質管理がとても重要です。コオロギ養殖が盛んなタイでは、既にコオロギ専用の養殖えさが市販されていて、ファームによらず一定品質のコオロギが生産できるようになっています。FUTURENAUTのコオロギを養殖しているファームでは、安全性へのこだわりとして遺伝子組み換えでない大豆やトウモロコシを厳選し、これを細かく粉砕してえさにしています。

よりおいしいコオロギを生産するために、収穫直前にえさを切り替える養殖場もあります。キャッサバ、カボチャ、スイカ、サトウキビなどを与えると、風味の良いコオロギができるのだそうです。

 

コオロギ養殖用のえさと飼育用コンテナ

 

また、飼育環境を衛生的に保つことも重要です。土に触れずに飼育できるよう、合板製の木箱、コンクリート製のゲージ、プラスチック製のコンテナなどを使ってコオロギを飼育する方法が一般的です。飼育ケースの中に紙製の卵カートンを縦に重ね置きし、1つの空間を多数の小部屋に分割します。こうすることで、非常にたくさんのコオロギを集密的に飼育することができるのです。フンは飼育ケースの底に落ちるので、カートンの隙間は常に清潔に保たれます。狭い隙間を好むコオロギの習性を利用した養殖技術です。

養殖のサイクル

コオロギの生育に適した温度(25~30℃)を維持できれば、40~45日で成虫になります。成虫になる前後の段階で、繁殖用に一部の個体を残して大半を収穫します。成虫になり、オスが鳴き始めたら繁殖のタイミングです。飼育ケース内に産卵床を置くと、メスが産卵を始めます。産卵後、産卵床を別のケースに移して保温すると、10日程度で卵が孵化して幼虫が誕生します。ここから次の養殖サイクルが始まります。

 

食用コオロギの養殖サイクル

 

コオロギの養殖には、暖かい環境が必要です。温度が低くなると成長速度が遅くなり、卵が孵化するまでの期間も長くなって、生産量が少なくなってしまいます。一年中暖かいタイは、コオロギの養殖に適した地域といえます。

食品衛生管理基準に適合したコオロギ養殖

安全な食品を生産するために、タイではコオロギ養殖に食品衛生管理の仕組みが導入されています。FUTURENAUTのコオロギを養殖しているファームでは、GAP(Good Agricultural Practice:適正農業規範)、GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:ハサップ)の各認証を取得し、安全な食品を生産するための品質管理に力を入れています。

 

国際的な食品衛生管理の認証を受けたコオロギパウダー生産
<コトバ>
GAP(Good Agricultural Practice:適正農業規範):農産物の生産において、食品安全の確保、環境保全の確保、家畜衛生の確保などに取り組むための適正な管理手法を示す手引きです。
GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範):原材料の受け入れから製造、出荷まで全ての過程において、製品が安全に作られ、一定の品質が保たれるようにするための製造工程管理基準です。
HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point:ハサップ):食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。
 

食品ロスを活用した循環型養殖システムの研究

コオロギは雑食性なので、食品工場などから出る食品ロスもえさに利用することができます。第1巻で説明したように、日本では年間約600万トンもの食品ロスが発生しています。これをコオロギ養殖のえさに利用できたら、食品ロスを減らしながら新しいたんぱく質原料を生産することができるようになるかもしれません。コオロギのフンは肥料として畑で使うことができ、生産したコオロギはパンやお菓子などの原材料として使うことができます。このような未来の循環型養殖システムを作ることができたら、食料生産は今よりもずっと持続可能な状態に近づくに違いありません。

 

食品ロスを活用した未来の循環型養殖システム

第3巻の出典

 

[1] FAO(国際連合食糧農業機関), Six-legged livestock: edible insect farming, collecting and marketing in Thailand, 2013.


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